【目的】
脊髄損傷による長期臥床者のみならず、寝たきり状態の高齢者、要介護者においては、褥瘡の予防は重要な問題である。褥瘡の発生の本態は圧迫による局所の虚血性壊死であり、体圧を可能なかぎり分散させることが褥瘡を予防する上で肝要かと考えられる。
今回我々は日常使用する寝具類に着目し、褥瘡予防を謳う既存の各種マット、円座等に加え、新考案のマットレス及び及び臀部体圧分散用具を用い、各々体圧測定を行い、有効性を比較検討し報告する。
【考察】
人体では60mmHgで3時間持続的に圧迫すると褥瘡を生じる危険性が高く、褥瘡を生じる圧力と時間はほぼ反比例するといわれている。臨床的には2時間ごとの体位変換が推奨されているが、体圧が低いほど良いことは言うまでもない。体圧により毛細血管が圧迫され、虚血をきたす圧力は32mmHgといわれているが、今回の検討ではムートンを除いては、ほぼ32mmHg前後の体圧に抑えることができた。ただし円座の場合は仙骨部の圧力は充分低いものの、その周囲で高い圧力を示しており、長時間使用した場合、この部分の褥瘡発生が予想される。
エアーマットは最も良好な体圧分散を示したが、内圧が高いと体圧も高めとなり、空気を若干抜いた状態で、より良い体圧分散を示している。つまりエアーマットでは、空気圧のセッティングが重要な要素であると考えられる。
我々が考案したエアーパンツも良好な体圧分散効果を得られたが、臀部が持ち上がることにより、肩甲骨部など身体の他の部位に、より圧力がかかるはずであり、他の体圧分散マットレス等の併用がより効果的であると考えられた。
マットaは若干高い圧力を示す結果が得られたが、内部構造として空気圧を利用しており、内圧設定により体圧が変化するものと考えられた。
マットbは良好な体圧分散を示しているが、その表層部は升目状の陥没部を持ち、タクタイルセンサーでは、一定面積を平均して計算する性質上、実際よりも低い値が出ている可能性がある。またマット自体の厚さが薄いため、使用者の体重が重い場合には底づきする危険性もあると考えられた。
我々の考案したマットcは、充分ネ厚みと特徴的なカッティングにより、良好な体圧分散効果を得た.また、碁盤目状にカットされた構造の表層部は、体圧を分散するとともに、身体とマットレス間に生ずる剪断力をも軽減し得ると考えているが、現在、剪断力を測定する方法が確立されておらず、今後の検討を要すると思われる。
【文献】
1)Roger.J. and Wilson.L.F. : Preventing Recurrent Tissue Breakdowns After "Pressure Sore" Closures. Plast. ReconstrSurg.,56 : 419-429,1975